いつだってあなたと






 初めて兄のためにバレンタインチョコを作ったのは、六歳の冬だった。
 もちろんそれは十年以上経ってから考えれば、殆ど母が作ったようなものだったのだけれど。
 それでもヒトミが兄のために作りたいと思ったのはその時からで、
 それから毎年バレンタインデーは、この兄妹にとっては欠かされることのない行事となったのだ。


「お兄ちゃん」

 弾んだ声が背後から聞こえる。ソファーに座って新聞を読んでいた鷹士は、
 その楽しげな声も可愛いなと思いながら、身を捩りヒトミの顔を見ようとする。
 それを阻んだのは、背中から彼を抱きしめる細い腕。
 その指先が摘んでいたチョコレートが、鷹士の口に運ばれる。


「美味しい?」
「ああ、世界で一番美味しいよ」

 穏やかでありながらも至極真面目な鷹士の言葉に、ヒトミは「いつもそう言うんだから」と暖かく微笑む。
 幼い頃の純粋な思慕から、真っ直ぐな恋心へ。
 かたちが変化した今も、変わらないのは二人が二人でいるということ。


 ヒトミが鷹士の頬にキスを落とすと、サラリとした明るい髪が流れ落ち、ペリドットのピアスがその合間から輝いた。
 ヒトミがそのピアスを初めてつけてから数年。二人は大人になり、けれど今でも二人でいる。


 そして来年も再来年も、同じ日を二人で過ごすことを願って。