逃げる先はこの手の中







  「キミ、自分が幸せになれるて思ってるん?」

  意地悪く可笑しげに問えば、紫紺の瞳が鋭く睨みつけた。

  それに何の効果があるというのだろう。
  敵うわけがないのに、彼女は決して抵抗をやめない。
  警戒心丸出しの姿はまるでいたいけな小動物のようで、却って狐の嗜虐心を煽るばかりだ。

  その耳元に、優しい睦言のように囁く。

  「させへんよ」

  びくりと、白い頬が強張った。
  その表情を視界に認めて、ギンは笑みを深める。

  ―――それでええ。

  紅潮した頬も、綻ぶような唇も、全て崩れてしまえばいい。
  彼女を幸せにしようとする誰かなど要らないのだ。



  「……貴様に、何の権限がある」


  ギリ、と唇をかみ締めて、それでも逃げるようなそぶりは見せようとせず。
  ピンと張った背筋だけが、早く男の前から居なくなりたいと急いている。

  それをあっさりと解放してみれば、彼女はもはやちらりとも振り向かなかった。

  「バイバイ、ルキアちゃん」

  今は逃がしたるから、はよ逃げや。








  だって追いかけっこはまだ途中。












  逃げて 逃がして
  逃げられない場所まで追いつめて
  そしたらキミに口づけをあげる

  壊れても一緒にいてあげる