悲劇(しんじつ)から逃れる







  想いを伝えるつもりはなかった。
  でも伝わってしまった。気づかれてしまった。

  「俺はお前が可愛いよ」

  とても苦い顔で、甘い言葉とは遠い顔で、そんなことを言う。



  ―――駄目です。



  声が出なかった。唇が小さく歪んだ。
  それを見られたくなくて、ただ俯いて首を振った。


  貴方と貴方の愛する人を苦しめてしまった私は酷い。
  けれどそんな顔でそんな言葉を吐く貴方だって、きっと少しぐらいは酷いのだ。

  だからお願いです。
  少しでも私を可愛いと思ってくれるのならば、
  願いを叶えてくれると言うのならば。
  それ以上、何もその唇から言わないで。
  そうでなければ、貴方は。


  私は。




  「嘘を、つかないでください」




  嗚咽に混じった声は、多分貴方に届いた。