あなたという光






  「……おいっ」


  バチン!!!


  「―――ぶっ!!」
  突然両頬を強い力で挟まれた、その勢いで妙な声を出してしまった。
  男の大きな手がルキアの頬全体を叩き、そのまま彼女の顔を自分のほうへと向けさせたのだ。
  「か、海燕殿……」
  「く〜ち〜き〜!俺は言ったよなぁ。なんて言ったか覚えてるよなぁ!」

  近い。近い。ものすごく顔が近い。

  恨めしげに言葉を発しながら尚も近づいてくる顔から反射的に逃げようとしたが、
  頭はがっちりと抱えられていて少しも動くことが出来ない。

  もしもこれが妻帯者の海燕とその部下のルキアでなかったら、まさしく男が女に迫っていると見える図だ。
  もちろん海燕にはその自覚が無い。なんという男だろう。

  「は、ははははい、覚えてます。覚えてますから…っ!」

  とにかく離してくれとルキアは念じる。
  けれど実際には近づきつつあった距離が止まっただけでそれが離れることはなかったし、
  頭……というより顎のラインが両の手で支えられたままで。


  「つまんねー奴につまんねーこと言われたぐらいで下向くな!前を向け!」


  前、というよりこれは上なんですけど。

  ほぼ無理矢理海燕の顔を見つめさせられているルキアが思わずツッコむと、
  海燕はそれに反応してピクリと眉を動かす。
  「んなのどっちでもいい…つーか、お前小さいから上のほうがいいな。上向け、上!」
  そうして片方の手だけはそのままに、もう片方でルキアの長い前髪に触れ、横に掻き寄せる。
  露になった視界にルキアが目を瞬かせると、その前で海燕は少年のようにニィッと笑ってみせた。
  「お、新発見。でこ出しても可愛いぞ、お前」
  「なっ……!!」

  「な、朽木。よく考えてみろ。上見りゃこんな優しくて男前の副隊長がお前を見てんのに
  お前が下ばっか見てちゃ気づかねーだろうが。そりゃ気分だって沈むぜ」


  だろ、と真面目ぶって同意を促す言葉には肯定も否定も思い浮かばず。
  ただ困惑と逡巡の後に、


  ―――零れ落ちた笑顔だけが全ての答えだった。







  (貴方は私のたいせつなひと。)